






電熱ペンによる独自の手法による木版画で表現する田中彰さんは、技法は「版画 」ではあるが版画家と呼ぶのはちょっと違う気がするアーティスト。常に根底にあるテーマが、「木と人間」との関わり。現代人がちょっと上から目線で見る、あるいは崇める対象の木ではなくて、木からの眼差しを強く感じる作風です。
2019年秋から2020年春にかけて制作した版画101点を収録した彼の作品集『JUMPING BRISTLETAIL』は、古生代デボン紀から現在まで形の変わっていない生物ー’イシノミ’ を探す過程で出会った生き物や風景が絵描かれています。 今回の展覧会はこの作品集に掲載されている101点の版画をすべて展示、また展示期間中に国立(くにたち)の自然の風景とそこから生まれたフレッシュな作品を毎日、1点ずつ増やしてゆきます。
ご本人曰く、途中からコロナ禍で遠出できなくなり、身近な自然を観察する時間をふんだんに取れたからこそ出来た作品群とのこと。
展示は田中さん自ら、こんなに小さなギャラリーにも関わらず長い時間をかけてレイアウトしてくれました。
彼が出会った生き物の順番通りに、そして生息していた場所を思い出しながら、1点1点場所を決め、インスタレーションのような展示です。
子供の頃のように林に入って、初めての生き物に遭遇するように、あるいは大人になって全く気にも留めなくなった生き物を思い出しながら、首をうんと伸ばして視線を上げたり、足元に視線を下げて屈んだりしながら、「作品」を見つけてみてください。
彼の展覧会の醍醐味は、開催場所の「モノ・コト」を取り込み、時には鑑賞者を巻き込んで制作し、展示最終日まで変化し続ける方法です。
近年アートィスト コレクティブがかなり主流だけど、通常はチームメンバーはもちろん決まっており、最終着地点を目指して制作、展示となるものだけど、彼の場合は、メンバーを固定せず(なので出入り自由)、作業を細かく指示、制限することはせず(おそらくここが最も大事)、観客・コレクター・通りすがりの人を巻き込んでゆくのがユニーク。「町田芹ヶ谷えごのき縁起」は、いつのまにか皆んなが喜んで巻き込まれ、そして自主的な行動へと昇華し、最終的には大団円。もちろん最終ゴールはイメージはしているでしょうが、もしかすると作者さえ着地点は最後までわからないのかもしれないとさえ思えます。
とある著名なミュージシャンが、『音楽で世界は変えられない。音楽にそんな力はない。でも目の前の一人を変えてしまう力はある。』と言っていたけれど、彼に巻き込まれてしまった人たちはきっと自分の中の化学反応に気付き、それまでとは違う世界を見ているに違いありません。
国籍、年代、性別さえも不明な彼の作品は、輝きがほんの数年で失われ忘れ去られるアートも多い中、おそらくどの時代においても、ひょっこり出てきた時、おや?と思うに違いない。
田中彰展「HOVERING WIND 透明な翅」8/16(日)まで。
オンラインhttps://watermarkart.base.shopでは8/23まで。新しく加わる作品をご紹介してゆきます。
田中彰展
「HOVERING WIND 透明な翅」
会期:2020年8/1(土)ー16(日) 13:00-19:00 月・火曜日休み
会場:ウォーターマーク アーツ&クラフツ
186-0002 東京都国立市東2-25-24-2F 042‐573-6625
http://watermark-arts.com/
すでに4/12から開催中です。
「一顆(いっか)の山」
山や渓流で拾った石を木口木版に彫っている。単にその足跡のような石もあれば、お話の萌芽を秘めた石に出会うこともある。かねてより、山の不動性に魅せられてきた。石はその分身であり果実であり、常に、山の芯を指し示すコンパスのようにも見える。 ある日街に出て、雑然とした築山の上に、硬く締まった一顆をそっと置き、店をあとにしてみたい。
https://shokobekki.tumblr.com
この度初めて戸次祥子(べっきしょうこ)さんの展覧会を開催します。
掌の大きさほどの山の石をモチーフに、木口木版で、ひたすら一つまた一つと淡々と彫りあげた静かな佇まいの石たちは、その石の母である山そのもの、宇宙へと繋がる無限の広がりを感じさせます。
気づかれずにそっとあるもの、声なきもの、長い時間をかけて育まれたものへの愛を感じさせるその作品は、作者の世界への眼差しでもあります。ぜひご高覧ください。
作家在廊日:4/12,13,14,27,28
戸次祥子: 1979年生まれ。大阪出身
2002 大阪大学人間科学部(教育学専攻)卒業
2010 京都造形芸術大学卒業。卒制(木口木版とブックデザイン)が学長賞受賞
2005年頃から自然の木の葉(落ち葉)を画材とした絵、 近年は木口木版画の制作に取り組み、発表を続けている。書店員、出版編集等の仕事を経て、装丁 挿絵なども手がける。個展やグループ展での発表のほか、イラストレーション、作品の受注制作などを中心に活動。